単純な場所

sophisticated girl; plain space

2018年に観た映画のこと

この数年、年間を通すと150作品前後の映画を観るのを習慣としてきたけれど、2018年は100に満たず、量的側面からして自己啓蒙活動の退潮を自覚せざるを得ない。

NetflixとAmazon Primeを映画鑑賞の主軸に据えた1年でもあったのだが、電子書籍と同様、テクノロジーの手軽さが実際の視聴につながるかといえば実際にはそうなっていないというのも興味深い。26種類のジャムと6種類のジャムを陳列した店舗では6種類のジャムに絞ったほうが売れ行きがよくなるという話もあるけれど、まず何を観るかという選択の行為自体がハードルになるというのは何だかわかる。

バスターのバラード

しかしNetflixオリジナルの映画にはクオリティの高い作品が多くて、むしろハズレがないといってもいいくらい。わけてもコーエン兄弟の『バスターのバラード』は期待通りによく出来た西部劇で、ゾーイ・カザンの出演による加点はあるにして、その要素を割り引いても楽しめた。

人狼

『バスターのバラード』の上をいくのが『人狼』で、押井守のケルベロス・サーガの韓国映画界によるリイマジネーションというべき内容だけれど、『紅い眼鏡』や『ケルベロス』があらかじめ到達を諦めた境地を軽々と実現していて、まずはそれこそが彼我の実力の差というものだろう。ガン・アクションについていえば2018年のベストとしてもいいのだが、本邦の実写にまず欠けていたのがこの部分だったではないか。

スリー・ビルボード

中西部を舞台に、身内の死の文脈を究明しようとして共同体に阻まれるというテーマでは『ウィンターズ・ボーン』という秀れた映画があったけれど、この作品も役者の素晴らしい仕事によって、それに比肩するものになっている。ウディ・ハレルソンを、ちょっとコクのあるジェイソン・ステイサムと認識する人間も最早ないに違いないが、それどころかかなり重要な俳優になっていると認識を改めたものである。いや、それは『ディフェンドー』の頃から明らかだったとはいえ。

ペンタゴン・ペーパーズ

スピルバーグが昨今の政治の状況を憂慮して1年足らずの製作期間で世に問うたという背景事情だけでも熱くなるわけだが、メッセージそのものは米国に限らず、むしろ本邦において死にかけているジャーナリズムに檄を飛ばすものと思ったものである。

新感染 ファイナル・エクスプレス

韓国映画は『犯罪都市』も面白かったけれど、同じくマ・ドンソクが出演していた『新感染 ファイナル・エクスプレス』は閉鎖状況におけるゾンビものというジャンル映画としての完成度もさることながら、釜山橋頭堡への潰走という物語構造だけでご飯三杯はいける。

獣道、勝手にふるえてろ

『獣になれない私たち』の松任谷以前、『獣道』の主人公 愛衣を演じてその天才性は証明されているのだけれど、2018年はまず伊藤沙莉の年として記憶されることになるだろう。

そして松岡茉優の初の主演映画となった『勝手にふるえてろ』は正月早々、映画館で観たのだけれど、この人もどんどんその芸域を広げ既に名声を確立し、つまり『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』の二人がそれぞれに台頭した年となったのは慶賀すべきでまことに感慨深い。

Published on: 2018/12/29

Categories: 映画