単純な場所

sophisticated girl; plain space

2024年に観た映画のこと

とはいうものの、2024年は振り返るほどには映画を観なかったのである。新年早々、研修の論文を書いてその合間に地区の仕事をすすめ、地元のかかわりにはそれ以降もずっと時間を投じていたというのがあらましの状況。7月にはこれまで逃げおおせてきたコロナにも罹患して、しばらく臭覚を喪失するという生物学上の危機にも立ち入った。合間にはたずきの仕事もしたのだが中国と米印の経済圏にかかわる大ぶりな話で、近年なかった大規模なプロジェクトを扱っていたのである。言いたくないが、わりあい忙しかったということになる。

この年の早い時期から懸念はあったのだが、ずるずるとした感じで体勢を立て直す間もなく「もしトラ」が現実化し、気候変動は各地で各地での災害のニュースとなって伝えられた。反転の見通しないまま、2025年が今後の方向を決定づける節目になるのではなかろうか。

アンメット

映画よりもドラマを熱心に観たというのはひょっとしたら2016年以来のことで、その印象には杉咲花の仕事が大いにかかわっている。『アンメット』は『エルピス』を生んだカンテレのドラマ枠だったのでもともと期待はあったけれど、原作以上に川内先生にフォーカスした篠﨑絵里子の脚本は杉咲花にあて書きしたような密度で実に見応えがあったと思うのである。

海に眠るダイヤモンド

そして第4四半期は『海に眠るダイヤモンド』があって、塚原組と神木隆之介はもちろん、杉咲花の仕事ぶりがドラマの完成度をさらに高めたとは衆目の一致するところであろう。こちらとしては野木亜紀子による脚本の手柄が大きいという意見ではあるものの。あの夜の朝子が2018年の朝子に邂逅する不思議なシークエンスを挿入したことで何となく大団円に持ち込まれているのだけれど、よくよく考えるとバッドエンドに近い話をそうと思わせないところに物語の力はある。

舟を編む

『海に眠るダイヤモンド』ではリナを演じた池田エライザが主人公の『舟を編む』は、傑作揃いの今年のドラマでも印象に残る一作で、時間軸をずらしてCOVID-19のパンデミックを扱うことでリメイクとしての作品の意義すら高めた蛭田直美の脚本は、その名前を記憶しておこうと思わせるほどに巧妙だった。

虎に翼

そして吉田恵里香の『虎に翼』である。こう考えると本邦の優れた脚本の書き手が、ベテランの制作チームの仕事で傑作をものにしたその密度は今年、特筆すべきものがあった気がする。コロナ禍の抑圧がクリエイティブを刺激したのであれば、そういうこともあったのかもしれないという気がするけれど根拠はまったくない。それはともかく、衆目の認める伊藤沙莉の代表作にして、今後は出世作といわれるようになるに違いない本作は開始2か月の時点で傑作だったから、やはり大したものである。

おいハンサム!!

時代と世間に対する異議申し立てが、通底するメッセージであるとすれば、表現としてもっとも直截的なのが『おいハンサム!!』で、シーズン2と劇場版の映画を楽しむことができたのも今年の収穫。なにしろ続きがあると思っていなかったので、地続きの続編というのがまたうれしくて、これに先立ってシーズン1を視聴し直して臨んだものである。

シビル・ウォー

そういえば今年は映画館に足を運ばなかったのだけれど、A24の『シビル・ウォー』は実は北米公開の頃から楽しみにしていたのである。本邦公開が大幅に遅れたうえスクリーンの数もだいぶ少なかった気がしていて結局、Amazon Primeで視聴。とはいえ、こちらとしては今年の映画はこれ一択で、おそらく多分に予言的な内容を含んでいるとも考えている。本作の下敷きとなったのはバーバラ・F・ウォルターの『アメリカは内戦に向かうのか』だけれど、年が明けて行われる政権の移行こそ、このタイトルの問いに対する答えとなるだろう。

Published on: 2024/12/28

Categories: 映画